租税資料館 奨励賞

 会社員としての仕事が少し立て込んで、事務所開業に向けた動きが遅々として進まない中、うれしい知らせがありました。先日自宅のポストを見ると、租税資料館から「入賞通知在中」と書かれた封筒が届いていました。

 租税資料館賞は、公益財団法人租税資料館が税法等に関する優れた著書及び論文に対して毎年表彰を行なっているものです。今年3月に卒業した大学院で執筆した修士論文は、学内の優秀賞には選ばれなかったこともあり期待はしていませんでしたが、一応応募だけはしておいたところ、なんと奨励賞の受賞通知を受け取りました。

 賞金は50万円。税法分野の団体だけに「この賞金は確定申告時には一時所得の扱いになります」と書類にしっかり記されています(笑)。今週はちょうど勤務先の年末調整の期間だったので、きちんと申告しておきました。

 受賞そのものと賞金もうれしいのですが、それに加え、これで自分の修士論文がインターネットで公開され、今後多くの大学院生に読まれるようになったことが、少し大げさですが自分の人生の足跡を残せたように思えて、感慨深く、とても報われた気持ちになりました。受賞の要因を自分なりに考えると、次の3つと思います。


1.テーマ

 租税法に限らずどの学術分野でも、その専門領域の中に閉じた研究テーマと比較して、最近の社会のトレンドに密接なテーマの研究は、研究者の関心をより多く集める傾向があると思います。そのため、租税法の研究領域においても近年はBitCoinを始めとする仮想通貨やFinTechをテーマとした研究論文なども多く見られ、今後は人工知能をテーマとするものも多くなるものと思います。

 その意味で、近年の大きな社会的変化であるオンライン会議や生成AIの他、業務用会計ソフトなどの飛躍的な普及を可能とした重要技術である「クラウドサービス」を論文のタイトルに銘打ったことは、高評価を得るためのキーになったと推測します。


2.密度

 学術論文そのものの執筆経験がなかった私は、そもそも5万字前後もの文章を書くこと自体に自信がありませんでした。また論文執筆のため参考にした過去の租税資料館賞受賞論文の中には、総頁数が200頁近いものもあったことから、論文の執筆にあたっては、とにかく「量を書くこと」を意識して進めました。

 その結果、一旦完成した論文の初稿は114頁で文字数が8万字近くあり、「大は小を兼ねる」と思って、それを何ら気にすることなくゼミで教授に見せたところ、「修士論文は文字数が6万字程度に制限されている」との指摘を受けました。にわかには信じられず、M1の2月に学内で開催された修士論文の説明会資料を見返したところ、確かに「文字数は4万~6万字」の記述が。。。

 そのため、そのゼミの後、8万字の論文を6万字以内に削る作業を行いました。これもなかなか大変な作業で、セクションを丸ごと削ると全体の論理展開に悪影響を及ぼしてしまうため、目次の構成はほとんど変えることなく、文章の中身を一言一句削りました。その過程で、引用文献をダラダラと転記している部分は、コンパクトに要約せざるを得なくなり、それが論文全体の密度を高め、引き締まった文章で主張が凝縮されたことが功を奏したように思います。いわば、怪我の功名ですね。


3.参考文献

 勤務先の同僚からPaperpileという文献管理ツールの存在を教えてもらい、これを使って文献をしこたま集めたところ、最終的に収集した文献数は268になりました。論文の審査は、参考文献リストも重要な判断材料になるとの情報を得ていたことから、論文のボリュームを削る中でも、引用文献数は減らさないようにしました。

 また、インターネット上の参考文献は、できるだけURLを明記してハイパーリンクを付けたことによって、論文の内容はともかく、自身の研究テーマの領域に関するリンク集としても充実させることができました。今回私の論文が奨励賞を受賞したことでインターネット上で公開され、その様々な文献へのリンクが今後修士論文を執筆する大学院生の研究の一助になれば、望外の喜びです。


 授賞式は、来月下旬に早稲田のリーガロイヤルホテルで行われるとのこと。これはもう人生の晴れ舞台なので、きちんとしたスーツを新調して臨もうと思います。


2024年10月 秋寒の候





コメント