欲望の資本主義

 『欲望の資本主義』というテレビ番組が好きです。
 私自身のライフワークとも言える研究テーマ「資本主義とは何か」を真正面に扱う数少ない教養番組で、2016年5月に始まり、概ね年2回元日と夏に新作が放送され、毎回楽しみに観ています。
 とは言いつつも、ここ最近は徐々に新鮮さを感じなくなってきて、今年の元日もそれほどの期待はせずに観たところ、いい意味で裏切られました。

欲望の資本主義2025-成長神話の虚実-
   第1章 すべてがディールになる時 :トランプ政権誕生
   第2章 合言葉は世界分散 :インデックス投資は賢明な選択
   第3章 成長をめぐる迷宮の中で :国家の制度の良し悪しこそが成長を左右する
   第4章 グローバル化の果ての光景 :関税などの消費税は福祉を低下させる
   第5章 倫理が企業を救う? :匠と仕組み、倫理と資本主義のバランス
   第6章 本当の価値の作り方 :総合商社
   第7章 成長神話は歴史の勝者が作る? :イーロン・マスクの緊縮政策は経済成長の手段
   最終章 反転する成長の物語 :アメリカ的資本主義は常に誰かの犠牲を要する

 人は必ずしも合理的な判断をしないという「最後通牒ゲーム」や、匠と仕組みの違いなど、非常に興味深いトピックがあった上で、最終章のスタンフォード大学ルネ・ジラール教授による『欲望の三角形』という理論に、とても衝撃を受けました。

ルネ・ジラール『欲望の三角形』
   人間は、何を欲するか、自分ではわからない生き物だ。
   だから自分の心を決めるために他者の欲望を模倣し、他者が欲するものを欲しがるのだ。

 また、ジラールは『贖罪の山羊』という理論も示しています。私自身が生きてきた中で「何故だろう」と感じた自己および他者の行動や社会の問題が、この2つの理論で説明できると感じました。

  -人間の欲望は他人の欲望の模倣だから、対象が曖昧で決して満足することがない。
  -その対象に興味がなくとも、他者の満足を妨害する。
  -他者の土地を欲し、戦争は終わらない。
  -際限のない株主の欲望により、企業は常に対前年プラスの成長を求められる。
  -他者が欲するので、出世を目指す。
  -他者が欲しいものを欲するので、流行とバブルが発生する。
  -他者の羨望を得るために、SNSで発信する。
  -競争や妬みの歪みから社会を安定させるため、いじめをする。

 資本主義とは、無限に湧き出る人間の欲望のエネルギーを経済成長に変換する仕組みと捉えることができ、まるで蒸気の力を動的エネルギーに変換する蒸気機関のような人類の発明です。
 暴走機関車は、破滅するまで走り続けるのが宿命なのかもしれません。

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